児玉 陽美

夢の余滴—児玉陽美の絵画

どことも名指すことのできない町や、塔、飛行船。そして後ろ姿の人物や、不思議な鳥に似た生き物たち。
それぞれのモチーフや、虹のようにも見える光の帯は層を成し、ありきたりの遠近感がひしゃげさせてしまうかのようだ。

これらの画面は一見すると、整理されていないようにも見受けられるだろう。
モチーフは自由に、ほかのモチーフの領域に入り込む。色と色、かたちとかたちが織物のように織り込まれ、もつれながら重なりあう。一枚の、決して大きくはない絵のなかに、いくつもの絵が併存しているかのようですらある。

だが、夢とは本来、そういうものではなかったか。
モチーフ同士をひとつの物語へとまとめあげることを拒むかのような、混沌とした筋立て。にもかかわらず、鮮烈な印象を残す色合い。
故意に、つくり込み過ぎないままに残してあるというマチエールも、この印象を強めることに寄与しているに違いない。
あたかも突然、暴力的断ち切られた夢のように。未完の夢の手触りが枕元にしっかりと残っているかのように。
整合性があるはずの現実世界に、しかし否応なく、澱のようにたまっていく不条理を、児玉の絵筆は、夢の条理によって手探りで、あくまでも手のリズムで塗りこめていく。

絵は半ば、目覚めることを拒否し、夢のなかに埋もれている。
眠りの余滴を小さな画布に染み渡らせながら、物語の続きを静かに待っている。
今村 信隆(京都造形芸術大学)